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この世のあらゆる痛みを
上手に避けて生きてきたくせに、
今さらこんなことに
なるなんて。
ここのところ
胸を刺す痛みは、
ぜんぶぜんぶ
過去の私が受けなければ
いけなかったものばかりだ。
止まらない涙に
小さくあえぎながら、
震える手で
携帯を取り出した。
自分の吐く白い息で
視界がかすむ。
それでも
やめるわけにはいかなくて、
アドレスの中から
古いデータを探した。
どうして
消しておかなかったかなんて、
もう愚問もいいところで。
いいかげんな
昔の私の気まぐれは、
今日のこの日、
この夜に繋がっていた。
「……も、
逃げられない」
つぶやき落とし、
私は液晶に映し出された
フォントを見て
目を細める。
発信をタップしながらまた、
涙が落ちた。
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