生はまこと散華(さんげ)に尽きる

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  「……そんなふうに、 人を見下げ果てた 言い方をするなら、 どうして」 「決まってるだろう。 僕は昔からきみが欲しい」 「ばかな」 差し出された大きな手に 触れられる前に、 今度は飛びのいた。 私だって、 欲しかった。 恋であろうとなかろうと、 この手が死ぬほど欲しかった。 ……けれどそんなの、 昔の話だ。 「互いに納得して、 終わったじゃないですか。 なにをいまさら」 「時間なんて関係ないよ。 僕たちの間の 障害物はなくなった。 それだけだ」 「障害物……?」 がらがらと、 自分の中でなにかが 崩れる音がした。 ……乾先生の中の この“うつろ”が怖くて── 10年前の私は、 この人から逃げた。 聞き分けのない恋に、 何度も何度も 上っ面の罪悪感を 投げつけて。 .
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