生はまこと散華(さんげ)に尽きる

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  「……っ。 それでも、 奥さまを苦しめたくて、 あなたに手を 伸ばしたんじゃありません!」 「言い切ろうとするあたり、 きみは本当に善良な女性だよ。 ……目を覆いたくなるほどね」 ふっと笑い落とすと、 乾先生は一気に 私との距離を詰め、 一瞬で手首を掴んだ。 「あっ!」 「ばかな子ほど かわいいという話は、 本当だね。 僕は、きみのその 無自覚なまでの愚鈍さを、 本当にかわいいと 思ってたんだよ。 ……年季が入った今もね」 「……っ!」 乾先生は私の手を引くと、 さも当たり前のような顔をして 抱きしめてくる。 「放して」 「愛だなんだと、 今さらそんなぬるいことを 口にするのなら…… 僕だって、 理屈じゃないと答えようか」 「なにを、 ばかな……」 .
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