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桃さまは私を
好きだと言ってくれた。
選んでくれた。
つるつる肌につやめく髪は
女の美徳に違いないけれど、
付加価値でしかない──
はず。
付加価値というなら
彼女は既婚、
私はアラサーだけど未婚。
市場の価値は言うまでもない。
馬鹿げた価値観だけど、
今日の疲労感では
そうでも思わなきゃ
自分を奮い立たせることなんて
無理だった。
「知りもしないで、
彼とお付き合いするなんて
不可能だと思いますので」
あえて敬語を貫くのは、
わずかに残る人としての
私の矜持だ。
なにか感づいたのか、
義姉という女性の眉根が
ぴくりと寄せられた。
「自己紹介が遅れました。
わたくし、木枯杏と申します。
瑞島さんには、
大変よくしていただいています」
「……ッ」
.
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