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タツオとジャクヤは石柱の林を抜け、敵陣奥深くへと潜入していった。索敵のローラーの向こう側なので、敵兵の姿はほとんどなかった。タツオは拳銃を右手に握り締め、ジャクヤの後を追いながら同じことを考え続けていた。
ジャクヤは本気なのだろうか。本気で自分の一族本家の次期当主を殺してほしいといったのか。胸騒ぎが収まらない。
甲3区訓練場の北端が見えてきた。敵の本陣は空に漏れだす明かりでわかった。そのあたりの上空だけ、鈍く空が流血したように赤黒く染まっている。
「このあたりがいいみたいだ」
ジャクヤが何度かおかしな形に指先を交差させていう。これが密教や忍術でおこなわれる印を結ぶという動作だろうか。
一見したところなにも変わらない岩塊がごろごろと転がる、この演習場ではあたりまえの景色だった。
「隠れるのに、いい場所、悪い場所があるのか」
「ああ、ある。土地の気というのは、どんな場所にも必ずあるんだ」
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