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「ほんとうに」
そう口にしたタツオだったが、自分が不可視の薄い皮膜により、元は泥だったという岩といっしょに包まれているような気がするのが不思議しかたなかった。SF映画によくあるようなバリアーというのはこんな感じなのだろうか。
「タツオの仕事はこれで終わった。ぼくはさっきの石にもどる。そうだ、これをもっていてくれ」
白いちいさな紙片を渡された。よくわからない文字と赤い朱肉が見える。ジャクヤは遠くを見ていった。
「向こうの石の上にぼくは隠れる。テルのつぎはぼくの番だ」
タツオを最後まで生き延びさせるため、テルと同じように陽動をおこなうといっているのだ。電撃覚悟の最後の作戦だった。
タツオは顔をあげて、長身でやせ細った少年を見つめた。死ぬなとはいえない。ジャクヤも自分の仕事はわかっている。サイコが倒れた今、この隊の指揮官は自分だ。
「夜が明けたら、会おう。回線は開いておいてくれ」
「わかった。タツオも気をつけて。きみは川底の泥だ」
思わず笑いが漏れた。ジャクヤは走り去っていく。タツオは腕時計を確かめた。
夜明けまであと42分。なんとしても生き延びて、やつらを打ち負かしてやる。
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