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「集えマナよ!我が名はアレン!神を従える勇ある者!この胸に灯る炎のように燃え盛れ!」
ツンツンヘアの男がこちらに向けて手を伸ばし、なんか魔法を使う感じで呪文っぽい言葉を並べ立てている。
「灼熱の戦風!」
ブオーっという音と共に、音風が出てきて風呂あがりの俺の髪を揺らす。ドライヤー君がしたり顔で温風を垂れ流している。
「今日はどんな髪型にするんだ?なんなら俺と同じツンツンヘアにするのかい?へい、ハードワックスかまーん!」
「いやいや、普通でいいんだけど」
いつも通り適当にワックスを塗りつけて、適当にいじるだけでいいんだけど。
「はあ?ノリが悪いな。だからお前には彼女が……すまん、マジですまん。完全無欠にすまん。俺としたことが、お前の繊細な心に深刻な傷をつけてしまう所だったぜ」
「言!え!よ!そこまで言ったら意味ないから言えよ!つか本気で謝るなよ、おい」
何故うちの家電達は俺に彼女が出来ない理由を勝手にでっち上げるのだろう。
「一応、女の子と買い物に行くんだけどな」
嘘は言ってない。
「どうせ新田の姉ちゃんだろ?ああ、荷物持ちバンザイ」
「……どうせ図星だけどさ」
幼なじみといえばいい響きだが、隣の家で家族ぐるみの付き合いだと家族みたいなもんだ。今回もうちの母さんからの荷物持ち命令。
「ニヒヒ、まあ女の子には違いない。今日はとびきりクールな髪型にしてやんよ」
「そいつはどうも」
「集えマナよ!轟けマイナスイオン!凍える息吹の具現!」
「凍結の冷風!」
毎回毎回だけど、冷風に切り替えるのにその呪文みたいなのは止めて欲しいんだけどさ。マイナスイオンは使い方おかしい。
という言葉は上機嫌なドライヤーにはなんとなく言えなかった。
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