世界はそれを家電と呼ぶ6

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「あっきゅーん」 そんな未知の言語と共に、手を振りながらこっちに来るのは、幼なじみの新田祥子(にった しょうこ)だ。 俺の鼻先くらいに頭がくる、見た目だけで言えばなかなかに可愛い部類に入るだろうショートカットの女の子。 同じ高校の同じクラスだったりするわけだ。え?あっきゅん?気にしないでくれ。幻聴だ。 ガキの頃からの俺の努力が実らなかったものの一つに、幼なじみの俺の名前の呼び方があるが……あっきゅん?知らないな。ハハ、高校生にもなってそんな呼ばれ方されているわけないだろう?ほら、耳をすませてくれ。 「あっきゅん、お待たせ。今日は買い物に付き合ってくれるんだよね?」 ほら、『あきらくん』って言っただろ?耳をすまさないからさ。年頃の女の子がそんな恥ずかしい呼び方をするわけがない。漫画や小説でもせいぜい、あっくんが限界じゃないか? 何となく携帯を取り出す。ニヤニヤとした女の子型の携帯ちゃんが、こっちを見てくる。恥ずかしい!その呼ばれ方超恥ずかしいんですけど!とか言っているような気がするのは気のせいだろう。 けど、何となくデコピンを食らわせておく。 携帯は家電に入るかよく分からないんだが、こいつも人型だ。着信とか入らない限りはなんにも喋らないんだけど。 ってあれ? 俺の手のひらで立ち上がり、胸元に手を当てる携帯ちゃん。息を胸いっぱいに吸い込み-- 『せんのくわぁぜにのおおってええっ』 やけに渋い声で携帯ちゃんが一昔前に流行った歌を熱唱する。 着信は母さんか……どうせからかいの電話だろう。しばらく放っておくと、携帯ちゃんはなんかこちらを睨んできた。涙目で渋い声で歌い続けている。何で可愛い女の子の歌じゃないのよ!的な視線だ。 あ、切れた。不評だったみたいだし、着信いじっておくか。 「祥子?俺も買い物というか寄りたいところあるんだけど」 「いいよ。どこに行きたいの?あ、電話出なくて良かったん?」 また着信が…… 『ぅえいよっ!ぽじしょん、せっ!あっあっあっあっあああ!昨日までぇのぉ』 手のひらの上で携帯ちゃんの激しいダンスと歌が始まった。48の付く某人気アイドルグループの曲だ。 違う!これは選曲がちょっと違うから!私の身体を止めて!的な感じの訴えを無視する。 「じゃあ行くか。小山田電機」 携帯ちゃんを眺めながら家電を見に向かった。
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