ある夏の日と今の私

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夏なんてなくなればいいのに…… 幼い頃の私は、夏という季節に対してそこまで思うようになっていた。 それは全国の高校球児が一度は行きたいと夢見る甲子園があるからである。 私の家は野球一家と言っても過言ではなかった。 父は元高校球児で、プロにも注目されていたような実力者。 母は高校の野球部でマネージャーをしていた経験がある。 勿論二人とも野球を語らせれば話が終わらない程の野球好き。 特に夏の全国高校野球大会への想いは強く、大会が始まれば毎年休日の予定は甲子園での観戦に変わる。 それが私は心底嫌だったのである。 お人形遊びをしていても腕を引っ張られて無理矢理車に乗せられ、友達との遊びもキャンセルさせられた。 さらに甲子園に行くと夏の陽射しをまともに受ける為に日焼けしてしまい、夏休みが終わって学校が始まる頃には男子にも負けないぐらい黒くなっていた。 それはもう散々なくらいにクラスメイトに笑われたものだ。 そして小学三年生の夏。 あの夏も甲子園尽くしの夏であった。 嫌々連れられて陽に焼けながら、ぼんやりと球児を見ていたのを覚えている。 大嫌いな甲子園。 私は当然のようにそこにいた。
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