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暖かな陽光の降り注ぐ中、今日もヒヨは本を読んでいる。
場所は例の屋上。
時間は昼休み。
昼ごはんを食べたら、丁度眠くなるくらいの心地よさ。
周りにはヒヨ以外誰もいない。
トウヤはふと昨日のシンヤとの会話を思い出す。
(俺がマゾ?)
こうしてヒヨといるだけで、自分は幸せなんだ。
そう思っていた。
しかし、人間と言うのは、欲深い生き物である。
「なあヒヨ…」
ふと隣を見ると、ヒヨがトウヤの肩にもたれかかってきていた。
「!」
突然の出来事に、トウヤの心臓が跳ねる。
(落ち着け、慌てるな。まず動いたら駄目だ。動いたらヒヨを起こしてしまう。だから、静かに落ち着いて、心臓の鼓動を収めろ。そしてゆっくりヒヨの寝顔を見るのだ)
スッ。
冷静に、ヒヨの寝顔を見る。
「……スー」
いつも以上に可愛かった。
案外いびきかいて寝るとか、鼻が垂れてるとか、男子の幻想をぶち壊すパターンが往々にしてある気がするが、彼女の寝顔は、美しい。乱れがない。いつものヒヨと寸分違わぬ端正さで、かつ無防備。
(冷静になれねー!)
そもそも恋人とはいえ、女の子の寝顔を盗み見るようなマネをしていいのか?
(ここは目を逸らす、が正解だったか)
トウヤが理性と欲望の狭間で戦っている時、ヒヨが小さく呟いた。
「ごめんなさい…」
恐らく寝言だろう。
その後に続く言葉はなかった。
しかしその一瞬、ヒヨの表情が苦しげに歪んだように見えた。
「……」
それは、ヒヨのことを他人よりかは多く知っているトウヤとしては、ただの寝言とは思えなかった。
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