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ジョバンニと親友カムパネルラは銀河鉄道に乗って幻想的な旅をする。
しかしそれは、友人を助けて死んだカムパネルラの、死出の旅であった。
「前にも言ったかもだけど、私ね、お兄ちゃんがいたの」
いた。
と、ヒヨは過去形で言った。
トウヤは黙って続きを促す。
ヒヨが自分の過去を話してくれるのは初めてだ。
「でも死んじゃった。それにお父さんも。私のせいで」
「……」
「人が死んだら魂は宇宙に還る。宮沢賢治はそう考えていた。この本を読むとき、私は失われた魂について考える。どんな旅をしたのかな?他にも乗客はいたのかな?寂しくなかったかな?死んだら私の魂も、宇宙に還るのかな、銀河鉄道に乗って…」
トウヤには家族を失った経験などない。
だからヒヨの不安や孤独を、完全に理解することはできない。
彼女が悲しんでいるのはわかっても、トウヤに言えるのは薄っぺらで、ありきたりな言葉だけなのだ。
そんな言葉が、一体何の役に立つだろう。
どうして彼女を慰められるだろう。
「ヒヨ、ごめん」
(俺は到底ヒーローの器じゃないな)
「トウヤ君が謝る必要はないわ。私、トウヤ君といて、楽しかった。だから、ありがとう」
また、笑った。
でもそれはやっぱり寂しげで。
(楽しかったなんて、まるで、お別れみたいじゃないか…)
彼女は人間が死ぬことを意識せずにいられない。
過去の経験から死に囚われているのだ。
(だから俺といても、そのことを考えてしまうのか)
彼女が一人で本を読んでいるのも、そのため。
だが彼女は俺の告白を受けてくれた。
それは彼女自身、呪縛から解き放たれたいという、願望ではなかったか?
だからこそ、一歩を踏み出したのではなかったか。
(なら俺は、その想いに答えないといけない)
見つめ合う二人。
時が止まったような静寂の中、トウヤは決意するのだった。
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