12人が本棚に入れています
本棚に追加
ヒヨはいつも通りの表情である。
彼女も、彼女なりに、自分を保とうとしているのだ。
「それは、最初は可愛いってことで気になってたけど、ヒヨの感情の奥深さに触れて、ヒヨをもっと知りたいって思った。他のどんな生徒とも違う魅力が、ヒヨにはあるから」
トウヤはヒヨに正直な気持ちを伝える。
教養や気品では到底ヒヨに敵わない自分にできるのは、正直に、彼女を愛すること。彼女の本当の姿を知ること、だとトウヤは思っていた。
「私はね、トウヤ君の真っ直ぐさが好きだった。呪縛に囚われた私に、人を避けていた私に、物怖じしないで、傍にいてくれた。いつかあなたなら、私の呪縛を解いてくれるかもしれない、そう思った」
ヒヨは変わらずに感情を込めず、淡々と話す。
「解くさ。必ず解いてみせる」
力強く断定する。
「でもね、もう、いいの。もうすぐ迎えが来るから。ほら、聞こえるでしょう」
ゴッゴッゴッ…。
彼方から聞こえてくる駆動音。
その濃いブルーの汽車は、次第にトウヤ達のいる屋上へと近づき、フェンスの外側付近に寄り添うように止まった。
一列に並んだ窓は赤く宝石のように輝き、よく見るとその中には、子供や大人や、様々な人々が、楽しげに何かを話したりしているのだった。
(これは現実か、ヒヨの見ている夢なのか?)
最初のコメントを投稿しよう!