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「違う!」
びくりとヒヨがすくむほど、トウヤは声を張り上げていた。
「俺の父は警察官だ。だから事件の概要がわかった。ケンタロウは、風呂場に入ったとき、もう死んでた。その証拠に、解剖で、肺にほとんど水が入ってなかった。もちろん窒息死でもなかった」
「え?でも…」
「多分その時ヒヨが子供だったから、周りの人たちが気を遣って話さなかったんだ。父親が虐待の果てに自殺したなんて、子供には重すぎる話だからな。逆にそれが、ヒヨに誤った認識を植え付けた。自分が殺した、と」
「でも、でもお兄ちゃんは?お兄ちゃんはお父さんから私を庇って死んだ。私の…」
ヒヨは初めて、心の平静を失っていた。
頭の中に色々な感情が溢れ、制御できない洪水のように氾濫する。
「もしお兄さんが庇ってくれてなかったら、多分ヒヨが死んでた。どっちの命が残るか、命の取捨選択なんて俺にはできないし、代わりにお兄さんが死んでくれて良かったなんてもちろん思えない。でもヒヨのせいじゃないってことだけは確かだよ」
「……」
ヒヨは心の整理がつかないまま、俯いてしまう。
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