吸血城の夜

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 巨大な城門を通って、形だけの噴水が設置された中庭を通り、今、正面玄関扉前に立っているのは、外套を纏った青年だった。  眼差しは穏やかで、柔和な印象を受ける。だが、それゆえにどこか頼りなさげな雰囲気もあった。  ボロのリュックを一つ抱えている以外に、特に持ち物は見当たらない。  「ワタクシが応対した所、旅人のようでした。道に迷ったので今夜はここで休ませて欲しいと」  「このグラナダ城にお客様とはね。お姉さま、どうなさる?」  マルグリットは、無邪気な顔で姉に判断を仰ぐ。  「本来なら、役立たずの自動人形と私たち女だけの城に男性を入れるなんて、あり得ない所だけど……」  にかっ。  フェルは子供が悪戯を思いついた時のように笑う。  「これはチャンスよ。あれを懐柔して、血液奴隷にしてしまいましょう」  「わあ、それって素敵だわ、お姉さま」  マルグリットが楽しげに手を合わせて言う。
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