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「これは、すまないね、食事まで出してもらって」
旅人がテーブルに置かれたスープを前にして申し訳なさそうに言った。
「いいえ、お客様をもてなすのは、当然の礼儀ですもの」
マルグリットは大層愛らしい笑顔で言った。
それを見て旅人は、愛おしいものを愛でるように、マルグリットの頭を撫でた。
「……何ですの?」
「いや、君がとてもしっかりしていると思って、ついね」
「つい?」
「ああ、僕には娘がいるんだが、丁度君くらいの年でね。たまにお手伝いをした時など、こうして頭を撫でてやると喜ぶんだ」
「……そうですの」
マルグリットは、少し放心していた。
「でも失礼だったら謝るけど」
「別に気にしておりませんわ。それより早くスープをお召し上がりになって。冷めてしまいます」
「そうだね」
マルグリットに促されて旅人はスープをすくって口に運ぶ。
濃厚なトマトの酸味が口に広がり、熱い液体が体を温めていく。
「すごい、これは執事さんが作ったの?」
「そうですわ。さあ、どんどんお召し上がりになって」
「ああ、そうさせてもらうよ」
そうして何杯目かを飲んだ旅人は、当然ながら強烈な眠気に襲われ、テーブルに突っ伏してしまった。
「……」
それを見届けたマルグリットは、姉に報告する。
「よくやったわ、マルグリット。さあ、グレン、あの旅人を客室にお連れしなさい」
「はい、フェル様」
「……」
「マルグリット、何を俯いているの?」
いつも陽気なマルグリットが、珍しく思案顔なので、フェルが心配して問いかけた。
「いえ、何でもないですわ、お姉さま」
「そう、それならいいけれど。さあ、次はあの男を懐柔するわよ」
「はい、お姉さま」
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