吸血城の夜

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 客室に運び込まれた旅人は、両手両足を縛られ、ベッドに大の字に寝かされた。    「さあマルグリット。まずあなたが彼の血を吸いなさい。これもお勉強よ」  「はい」  フェルに促されて、マルグリットは緊張した面持ちで旅人の首筋に顔を近づけていく。  普段目にすることのない生身の男の顔が、すぐ近くにある。  少しずれれば、唇が触れてしまいそうなほどに。  「……!」  マルグリットは思わず顔を放してしまう。  その頬は、人間の少女のように染まっていた。    「どうしたの。まさか、意識しているの?」  「だってお姉さま、私、男性の血を吸うのは初めてなんですもの」  それに、マルグリットはこの旅人に、今までに感じたことのない感情を抱いていた。  それは温かくて、傍にいるだけでとても安心できるような不思議な心地だった。
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