5人が本棚に入れています
本棚に追加
僕には「」というものはいなかった。
ただ時間だけがそばに寄り添うだけで、それ以外に必要なものは何も要らなかった。あの日までは。
高校一年生のとき、僕はちーちゃんに出会った。
移動教室で急いでいたときに、廊下ですれ違った女の子は、背中にB4サイズの紙を貼り付けられていた。
気が付いた時には、僕は手を伸ばしてそれを剥がしていた。 セロテープで貼り付けられたその紙には「ちーちゃんブス」と心無い言葉が書かれていた。
その時、初めて僕は見ず知らずの彼女が「ちーちゃん」であることを認識した。ロングヘアーの青いリボンがよく似合う小柄な少女だった。
ちーちゃんは、驚いてその場を走って去った。
次に出会ったのは、図書室に本を借りに行ったときのことだった。
ちーちゃんは図書委員の仕事で貸し出しカウンターにいた。本を持っていった際、彼女は本の処理手続きをしながら、小さい声で「ありがとう」といった。
僕はとっさに「それくらいたいしたことねーよ」とぶっきらぼうに言い放った。我ながら雑な返答の仕方だったと思う。
最初のコメントを投稿しよう!