ちーちゃん

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 僕には「」というものはいなかった。   ただ時間だけがそばに寄り添うだけで、それ以外に必要なものは何も要らなかった。あの日までは。  高校一年生のとき、僕はちーちゃんに出会った。  移動教室で急いでいたときに、廊下ですれ違った女の子は、背中にB4サイズの紙を貼り付けられていた。  気が付いた時には、僕は手を伸ばしてそれを剥がしていた。 セロテープで貼り付けられたその紙には「ちーちゃんブス」と心無い言葉が書かれていた。  その時、初めて僕は見ず知らずの彼女が「ちーちゃん」であることを認識した。ロングヘアーの青いリボンがよく似合う小柄な少女だった。  ちーちゃんは、驚いてその場を走って去った。  次に出会ったのは、図書室に本を借りに行ったときのことだった。  ちーちゃんは図書委員の仕事で貸し出しカウンターにいた。本を持っていった際、彼女は本の処理手続きをしながら、小さい声で「ありがとう」といった。  僕はとっさに「それくらいたいしたことねーよ」とぶっきらぼうに言い放った。我ながら雑な返答の仕方だったと思う。
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