馬鹿がいる

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 図書室の奥の座席にちーちゃんは小さく丸くなっていた。 「逃げられないよ。どこにも」  泣きそうな顔が付録でついてきたので、思わずぎょっとした。 「私、殴ってきちゃった」  暴力ヒロインみたいなことを言い出したかと思うと、何故か泣き出した。僕はそれをオロオロしながらオロオロを続けるだけだ。 「誰を」  ようやく言えた言葉がそれだった。  ちーちゃんは泣きながら、ぼそっと「石原くんを」といったが、その石川くんは誰だろう。あ、石原だっけ? もしやさっきの失礼くんだろうか。よくわからないなあハハハ。 「まじか」と賞賛だけしておこう。その細い腕で殴れたな、おい。 「そしたら、石原くん気絶しちゃって」 「石原弱いな!」  想像以上のヘタレだな石原め。  ちーちゃんは、立ち直ったのか。急に立ち上がった。 「逃げましょう!」そう言い放ったちーちゃん。   「どこへ?」  僕がそう言うとちーちゃんは窓の向こうの遠くの山を指差してこういった。  「二人で遠いところへ行くの。石原くんの手の届かないところへ」
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