馬鹿がいる

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「いや石原の手は思ってる以上にどこにも届いてないと思うぞ。実際身近なちーちゃんの心さえ掴んでなかったわけだし」  僕はその石原がどの様な人間かは知らないが、ちーちゃんの懐をつかめるような男性には思えないしな。 「そうでもないよ」  ちーちゃんが予想外なことを言った。 「え」  ちーちゃん、石原のことが結構好きだったのか?  何、もしかして今までの会話は石原への照れ隠しか? 「身近でもなんでもないよ。彼と私の距離は」  あ、そっちか。なんだ。心配して損した。 「どうしたの」 「いや、なんでもない」  気を取り直して聞いてみた。 「そういえば、なんで殴ったんだ」  たぶん、石原がちーちゃんの気に触るようなことをしたんだと思うが。じゃなきゃキレたりしないし、そもそもちーちゃんの辞書に「キレる」なんて言葉が収録されてたことにビックリなんだが。ちーちゃんは僕と違って温厚だから。  ちーちゃんは僕とは違う。そう思っていた。  けれども次の瞬間、ちーちゃんと僕が結構似たもの同士だったことに気がつかされた。 「――だって、名前で呼ばれたから」
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