至高の逸品

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「ヘイタケシ! ポンジュース! 今日もトレビアンな朝だな!」 この浮かれポンチ野郎の名はケンゴ。 ケンゴは今、初めて行った海外旅行の毒に冒され、怪しいフランス人キャラになっている。 「そろそろ前みたくタケッチって呼べよ。それに前から気になってたけど、ポンジュースじゃなくてボンジュールじゃねえのか」 「アーハン? コレだからフランスに行ったことのないオムは! 向こうじゃ、『ポンジュ~す』っつってんだよ!」 こいつがここまで面倒臭い奴になったきっかけは、ケンゴの母ちゃんがスーパーの「フランス花のパリペア旅行券」のクジに当たってからだ。 ケンゴの母ちゃん、父ちゃんと行けばいいのに、「息子に世界を見せたい」と言って、ケンゴを連れてっちまった。 エッフェル塔や凱旋門、シャンゼリゼ通りを歩いてルーブル美術館やベルサイユ宮殿でウフフアハハと写メを撮り、その都度inJapanの俺にご丁寧に送信して来やがった。 全てカメラ目線のケンゴと母ちゃんが画面いっぱいに映し出され、フランスらしき景色はほんの少しかすっているようなモノばかりだったけど、まあ、それでも本当にフランスに行ったのだろう。 ケンゴは補習プリントをやる俺の前に優雅に座り、「fuuuu……」とアンニュイな演出をした。 「……ヘイタケシ。なにか聞きたいことが?」 「うるせえっお前も早よプリントやっちまえ」 「ノンノンノン。今日はフランスで食したトレビアンな料理の話でもしようじゃないか」 ほんっとうぜえ。 昨日なんてカバンにそのままのフランスパンをまるまる一本入れて来やがって、どこまでもなりきってやがる。
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