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こうして街中のチョコレート工場やクッキー工場は閉鎖され、ケーキショップもキャンディーショップも閉店した。
誕生日にケーキでお祝いすることもできなくなったし、コーヒーは皆がブラックで飲む。
貴婦人のお茶会にはフルーツのみ。暑い日はアイスクリームの代わりに、削っただけの氷を食べた。
朝食からはクロワッサンやデニッシュが消え、ただの味気ない粗末なパンだけがおかれた。
失業してしまった人々が何度か城に抗議にやってきたが、王様は「だめだ」の一点張り。
何だか味気ない日々に街の人々は悲しんだが、あの王様の言うことだからとあきらめた。
そういうわけで、王様は工場から漂ってくるあの気にくわない甘い匂いに、もう起こされることがなくなった。
王様は毎朝、気持ちのよい目覚めが出来た。
「おはようございます。本日の予定ですが。」
そんな王様に、いつものように予定表を手に執事が言う。
王様は手で執事の言葉を遮ると、のんびりと言った。
「ああ、なんと気持ちのよい朝。わしの嫌いなものがない世界。最高だ。」
執事は嫌な予感がして、王様の言葉を遮った。
「王様、それ以上は!」
「今日も何か禁止にしてやろう。わしの嫌いなものを全て排除してくれる。わしは王様だ。全てわしの思い通り。」
「あぁ…!」
執事はガックリ肩を落とした。嫌な予感は的中だ。
でも致し方ない。王様の決めたことだ。執事は覚悟を決めた。
王様はニヤニヤして言った。
「では香水禁止令だな。」
ところが執事は、カッカッと高笑いしている王様の手に手錠をかけた。部屋の外からも兵隊たちが入りこみ、王様のベッドの周りを囲む。
「何をする! わしは王様だぞ!」
「王様、甘いもの禁止令が出ております。王様はそれを破られた。よって、連行致します。」
「どういうことだ?」
「王様は甘い者です。」
「屁理屈言うな! わしが禁じたのは甘い食べ物だ! 人は関係ないわ!」
「王様は『甘いもの』とおっしゃったはず。食べ物だとは限定されておりません。はぁ、どこまでも甘いことをおっしゃる。しかたありません。王様の決められたことですので。」
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