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「そう言えば晴れて恋人同士になったのに僕のことは『ユウ兄』って呼ぶんですか?」
「……ユウ兄……敬語……やめたら……変わるかも」
「それは……先が長そうですね」
「ゆっくり……ね」
「そうですね。時間はたくさんあるんですから」
「そう言えば……ユウ兄……どうして……デパートにいるって……わかったの?」
「あーそれはたまたま通行人が噂をしてるのを聞きまして」
「うわさ?」
「順を追って話します。最初は学校に向かったんですけど飛び級の鈴が校則を破ったら退学だからそんな危険な真似はしないなと思って町中を走り回ったんです」
「……町中」
鈴からしたら町中を走り回るなんて途方も無い話だろうな。
「とにかく鈴と行った場所!って思ったんですけどどこにもいなくて、駅前のベンチでうなだれてたら可愛い子がデパートにいるって話してた人たちがいたので詳しく聞いたんです」
「それで……あそこに」
「はい。いやー良かったですよ変な人にちょっかい出されてなくて。もし鈴がさらわれたりしたらもう大変でしたから」
「大変……?」
「はい。告白を中断してリンに鈴の居場所を探して貰って誘拐犯をやっつけてました。それはもう二度と悪いことが出来ないようにみっちりとキツくね」
「心配……だったね……ありがと」
「何事もなければ良かったです。でも、今度からは勝手にいなくなるのは無しですよ?」
「……約束」
空いた手で小指を立てて差し出してきた。子ども界では契約書も誓約書も無いけどこれが立派な証だ。
「はい、指きーった」
「……罰は?」
「破らないって言ってるんですから罰を用意する必要無いですよ。信じてますから」
「ん……信じる」
信じてくれる。それが鈴にとっては自分を認めて貰えた様な気分にさせてくれる言葉なのか思わず笑みがこぼれていた。
「そうそう。かわいいんですから笑っていかないと」
「……かわいい」
鈴、今とても幸せ。幸せすぎて怖いくらい。もし少しでも状況が変わってたらこの言葉は鈴じゃなくて他の人に伝えられてたかもしれない。それを鈴が受けてる……鈴だけの言葉。うん、やっぱり幸せ。
少しだけ強く手を握ると同じくらいの力で握り返してくれる。そんな相手がいることに胸が熱くなるのを感じているとあっという間に家に着いてしまった。
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