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テレビをつけていない部屋は静かで、どこかで鳴いている蝉の合唱が鈴音のように聞こえる。カッコウののほほんとした鳴き声が、夏の朝を感じさせた。
二年生の夏休み、私はその日、朝からエアコンの効いた居間で『夏休みの思い出』という絵を書いていた。
スイカを食べながら、二階のベランダで花火を見ている私とばーちゃんとおかあさんの絵に、帰省前だったおとうさんは描かれていない。
花火は本当だけど、スイカを食べながらというのは私の完璧な演出だった。完成間近になって、おとうさんも描けば良かったとちょっと可哀想になったけど、もう大人一人分のスペースはないし、色も塗り始めたし…。ごめんねと心で謝って色鉛筆の黒を選んだ。
空を真っ黒に塗り終えたタイミングで、近くで鳴き始めた蝉に集中力が途切れた私は、蝉なら後付けで書き足せるかも、と居間を出た。
廊下に出ると庭の方から聞こえている蝉の音に、私は縁側に向かった。茶色い羽の蝉が一匹、じーちゃんの松にしがみついて、ジジ、ジーーーと鳴いている。数メートル先から聞こえる大音量に、少し尻込みしそうになった。
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