完結と衝撃

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完結と衝撃

「はい、これ出来たから直ぐに編集長に 渡して」 「はい……先生…もう良いんですか?」 あれから数日間、部屋に籠り小説を書き上げた。 我ながら仕事が早いと思う。 「良いも悪いも…何も無かったんだから」 「そう…ですか……っあ、編集長からだ… すいませ電話出ますね」 いちいち許可取らなくて良いのに……律儀な人だ。 「はい、もしもし!はい……はい……っ!! それは本当ですかっ!?はい?今先生と一緒に 居ますので伝えときます?…………先生っ!!」 「どうしたの?締切り前の般若の顔になってる」 「そんな事はどうでも良いんですよ?それより…… あの鳳監督から“是非今回の最新作『文字の涙』 を映画化させてくれ”との事ですっ!!しかも “是非此を機会に好意にしてくれないか”とも 言われてますよ!これは逃がしちゃ駄目です?」 「う、うん…取敢えず落ち着こうか」 怖い、怖かったよ…高さん………。 「アポを取りましょう?顔合わせです」 分かる。分かるよ………編集会社としては受けたいという心理。でも……それじゃ……駄目なんだ。 「悪いけど…映画何は許可するけど…絶対に 顔合わせはしないし…これっきりだと 思ってほしい……知ってるでしょ?」 「先生……そんな事言ってる場合じゃ――――」 「分かってる。でも……この作品は僕の中の 葛藤と別れがテーマの内容で…その切っ掛けが あの熱愛報道なんだ…もう充分だよ」 きっと鳳監督が目の前に居たら真意を問いただしてしまう…そんな女々しい事、大勢の人達の前で繰り広げる訳にはいかない。この気持ちから生まれた 『文字の涙』は葛藤しながらも決別を決意する小説家の話。そんな当て付けを本人の目の前でだなんて ………有り得ない。 「分かりました……編集長にはそう伝えます」 先程の興奮気味は何処に?落ち着いた様子で連絡している高さんを横目で見る。 もう……後戻りはできないんだ。
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