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告白と祝福
あれから更に一年経ちいよいよ映画館で公開される事になった。
「先生…本当に端っこで良いんですか?」
「うん…作品が観れれば良いから」
「………そうですか…」
あれから一度も鳳監督とは連絡も取らず、顔合わせもせずのまま此処まで来たが少しも後悔はしていない。これで良かったのだ。
「っあ始まった………」
先に作品を観て、後から舞台挨拶らしい。
「流石だ………」
やはり、鳳監督は大胆に斜め上を行く。
心なしか笑みを浮かべてしまう。
二時間弱で作品は終わり、遂に舞台挨拶となる。
「今回はなんと?あの“燐”さんの『文字の涙』を
映画化と言う事で…鳳監督!やりましたね?」
声を張る司会者…あの人は確かお笑い芸人さんだったはず。
「あぁ………まぁそうだな………」
「今、監督落ち込んでるんでそっとして置いて
下さいよ~(笑」
「一体どうしたんですか?」
止めてくれ……小説家さんの話をしないでくれ。
「それが……振られちゃったんですよ………」
僕の一時を壊さないでくれ。
「…………“燐”さんに?」
「っえ?」
どう言う事だ!?振った覚えは無いし、そもそも顔合わせもしてない。
「そうなんですか?でも、今日来てるはずですよ?」
おい!台無しになるだろっ!!
会場から出ようとしたその時、お笑い芸人さんの張り上げた声が耳を掠める。
「っあ!居た!!ちょっと!“燐”さん!!
何処に行くんですか~!ステージに上がって
下さいよ~~~~」
嘘だろ??
会場を振り返ると御客さんを含め、全員が僕に視線を向けていた。あの鳳監督でさえも。
「っえ~~っと…………どうも~~」
そのまま無視して帰ろうと後ろを向いた瞬間、
背中に重みと黄色い悲鳴がのし掛かる。
「やっと……会えたんだ……逃がすかよ」
あぁ………背中の重みは今鳳監督が僕を背中側から抱き締めているからで、黄色い悲鳴は御客さん達なんだ……………。
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