―黒狗の葛藤―

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「…ええ、存じてます」 マリウスの一言に少しばかりの間ができたが、泉は肯定の意を示す。 「信じたくなかったな。本当はどこかにお父さんや、お母さんが居て、いつかぼくを見つけてくれるのかなって淡い期待を持ってたから…」 彼の口から乾いた笑いがこぼれる。それに何も言えず、言葉を詰まらせていた 「でもね、」 静寂を切ったのはマリウスの方だった。一呼吸置いて、驚く泉に向き合う。 「ぼくは、"ぼく"であり、あの子とは違う。ぼくは、猟犬の"マリウス・スタンベリー"としての今がある。そう思うんだ。 それは、拾ってくれた火澄おにいさんのおかげでもあるし、あの時助けてくれたいっくんのおかげでもある。それとね、ぼく、守りたい人が出来たんだ」 泉を見るその瞳には先程までの不安そうな色は無く、透き通り、強い意志を感じる赤色を輝かせていた。 それを見て、泉は居住まいを正す。この子は、いやこの人は、覚悟を決めているということが分かったから。 「ねぇ、いっくん、お願いがあるんだ」 「…はい」 「あの子を、ぼくの兄弟を、逮捕するのを手伝って」 「…はい!」
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