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「何を、何を言っているの、きみ…?」
「何って?ふふ、かわいそうなわたしの弟。何も覚えていないのね」
憐れむような、しかしどこか嘲笑うかのように目の前の彼女はくすくすと笑う。
「ご覧なさい?もう少し居ればお前も思い出すはずよ
お前も、たった数年前まではこの実験体と同じ境遇だったってこと」
「――!?」
頭が、真っ白になる。
突然、言われたことに現実味を感じられず、ただ否定するしかできない。
「うそ、だ。だって、ぼくは…」
「お前、自分の記憶、ちゃんとある?両親と居た記憶は?…お前の本当の名前は?知っているのかしら?」
そう問われ、マリウスは口をつぐんでしまう。
―ぼくは、何も知らない。はっきりとある記憶は、孤児院時代から今現在まで。
…それ以上過去の事を、何も知らない。
「ほぅら、やっぱりね。どうして分かるかって顔をする。
ふふふ、分かるわよ、わたしにも無いもの。自分の両親との記憶、そして被検体ネームとして与えられた名前以外の自分のことが」
にやり、と彼女の口角が上がる。
「でもね、お前のことはよぉーく覚えていたのよ。唯一の成功例。そして逃げ出した裏切り者。ふふ、忘れたりしないわ」
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