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そう気づいた時はもう遅かった。どれだけ四肢に力を込めようとしても動かない。ピクリともしないのだ。
「アッハハハハ!!あーー愉快、愉快だわ!どぉ?自分の能力で動きを封じられる気分は!さぞ心持ち悪いでしょうよ!」
嘲笑う高い声が耳をつんざく。何もできず、何も言えないで居た。
嫌でも分かった。自分と似た見た目と、似た能力者が複数作られていたのだろうと。
でもその事実を受け止められず、脳内は未だに否定の言葉を響かせている。
「わたしたちはねぇ、お前が羨ましかったのよ。実験にも成功して、逃げ出せて。でも、お前のせいでわたしたちはどれだけ苦しい思いをしたと思ってるの?」
彼女が、動けなくなったマリウスに向かってぺたり、ぺたりと素足のまま一歩一歩噛みしめるように歩み寄る。
そのゆっくりとした歩みにすら距離を置くことが出来ずにいた。
「だから、決めてたの。お前を殺して、わたしがお前になる。完璧なマリウスになってあげるわ」
ぺたり、ぺたりという足音と同時に包丁が彼女が歩く度に鈍く光る。
「生ぬるいのよ、苛々しちゃう。わたしたちはそんな生ぬるい考え方をするように生まれてきたのではないのよ、マリウス」
彼女は冷ややかに言い放つ。
「お前は成功例だけど、欠陥品だわ」
何も、言い返せずにいた。それを見て、彼女は包丁を持ち直し、
「ばいばい、マリウス」
そのまま、鈍く光る包丁が真っ直ぐ振り下ろされる。
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