三夜

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その祖母ちゃんから「困っているときはお互い様なんだよ、泉実や。こちらが困ることだってあるんだからね。」と教えられて、実際に祖母ちゃんの仕事も見てきた俺は、つい目の前に俺が少しでも力になれそうな困っている人がいると、声を掛けてしまう。 お人好しと呼ぶなら呼べ。 お客さんたちから呆れられることだってあるけれど、それが俺だ。 何故そんなことを話しているかというとだな。 店で今夜の下ごしらえをあらかた終え、いつもより時間が早めに済んだので、珍しくぶらりと近所の散歩に出てみたんだが。 もうすっかり夏の暑さはどこへやら、秋の夜風に切り替わっているなあと思いつつ、ぶらぶら歩いていると、目が合ってしまった。 道路の街路樹に寄りかかるようにして、肩をがっくり落としている中年男性と。 着ているものはスーツだったけれど、どことなく薄汚れていてよれよれに見える。
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