三夜

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店に戻ると、俺は男を中に入れた。 カウンターの真ん中の椅子に座らせると、コップに水を1杯入れて出す。 「あ、あの・・・酒じゃあ・・・」 「はい?」 「い、いえ!」 ・・・・・・酒って言ったか? ここが居酒屋だから、酒を出してくれるもんだと? こいつ、そこまで図々しいやつなのか? 「申し遅れました。居酒屋まるの店主、烏丸泉実です。」 俺は、店の名刺を男に渡した。 それを受けとると、男はあたふたと自分の背広のポケットをあちこち探り、がっくり肩を落とした。 「すいません・・・私、名刺を忘れたみたいで・・・」 「かまいませんが、お名前をお聞かせいただいても?」 「はあ・・・田貫と申します。」 田貫・・・どことなく動物の狸に似ていると連想してしまったのは、田貫さんの体型と目の回りの隈のせいだと思いたい。
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