三夜

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俺は、田貫さんが何か言うのを待ってみたが、落ち着かない素振りを見せながらも何も言い出さない。 時間ばかりが無駄に過ぎるので、俺は一言断って、下拵えまで済ませた料理の仕上げを始めた。 今日の付きだしは、ちくわのおろし和えだ。 ちくわを薄く輪切りにして、水分をよく切った大根おろしと冷凍しておいた枝豆と一緒に混ぜて、酢、砂糖、醤油を合わせたもので味をつける。 それから、今日は珠美さんがそろそろ来店するだろうか。 木戸は毎日のように来ていたけれど、今夜は仕事仲間との飲み会だと言っていた。 ミハイさんには、スペイン産のワインを用意してあるし・・・ 「あのう・・・」 俺が頭の中で料理を考えていると、田貫さんがようやく口を開いてくれた。 身の上話をしてくれる気になったかな。 「・・・一番安い料理でいいんで、何か食べさせてもらえんでしょうか。」 そっちか!
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