一夜

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「泉実ちゃーん!魚と魚とビールちょうだい!」 これは、珠美さんの定番の頼み方。 魚は「酒の肴」という意味ではなく、そのまま、ストレート、魚介類の「魚」のことだ。 俺は、まず冷えたビールと同じく冷やしておいたグラスを出し、おしぼりと一緒に付きだしの小鉢を並べた。 本日の付きだしは、オクラと長芋をなめ茸で和えたもの。 「魚は、いつもの刺身盛り合わせと、鯵の南蛮漬けでどうでしょう。」 「最高!!」 元来、生魚の好きな珠美さん。 一品は、刺身の盛り合わせで大概満足してくれる。 日によっては、俺も別の料理を二品作ったりするけれど、刺身の時の方が喜んでくれている気がするんだよなあ。 まあ、刺身の盛り合わせは、その日に仕入れた魚の中から三種類ほど見繕って出させてもらっているので日替わりと言えば日替わりだ。 それに、今や一家の主婦であり育児中の珠美さんが、外資系に勤めていた頃のように続けて来店してくれることもないので、来店してくれたときにはやはり好みのものをお出ししたい。
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