二夜

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「でさ、俺の仕事がのろいってゆーんだよ!」 木戸が、ビールのグラスをドン!とカウンターに叩きつけるように置いた。 どうやら、今夜の木戸は大荒れのようだ。 店に来て、いつもの注文をしたけれど、出した豚の角煮に箸が進まずビールだけ飲むという、いつもと違う様子。 木戸は大工だ。 木戸の棟梁は、亡くなった俺の祖母ちゃんの知り合いで、この店の改築も請け負ってくれた。 そのときに木戸もいて、それでここに来るようになったんだが。 棟梁は、木戸のことをとても可愛がっている。 器用とは言えないが力は出し惜しみしないし、根が素直だ。 「ありゃあ、ちっとバカだな」と言われているものの、それは棟梁ならではの愛情だ。 その職場で、嫌なことがあったんだろうか。
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