二夜

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「木戸さんは、いい加減な仕事はしませんよね。」 「ったりめえよ。俺の前でんなことしやがったら、ケツの一つも蹴飛ばして追い出してらぁ。」 この棟梁ならやりかねない。 昔かたぎの厳しさに付いていけない若者も多く、だから新しい見習いが入ってこない。 その代わり、棟梁の元に残っているのは、みんな棟梁に育ててもらって、表裏のない優しさと厳しさに感謝して、それを仕事にぶつけている人たちだ。 木戸も、この棟梁の下で働きたいと強く願っている一人。 「若ぇんだ、ちったぁいじられても仕方なかろうよ。しかも、ここんとこ、ほれ、あの若い娘っ子が弁当届けに来るだろ。そりゃあやっかまれもするだろうよ。むさっ苦しい男集団だ。」 あ、かすみさん。 そうか、10代の女の子が甲斐甲斐しく世話を焼きにきたら、そりゃあ面白くもないよな、周りは。
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