二夜

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「おう?今日はこいつをな。」 そういって、親方が懐からごそごそと出して見せてくれたのは、煙管入れ。 そこについている・・根付け? 「どっかに根付けを落としちまってよ。ないとどうにも落ちつかねえんで、買ってきたんだわ。」 そこについているのは、亀の根付け。 「実はよ、これはまだ内緒なんだがよ。」 声を潜めた棟梁。 何を打ち明けるのかと思ったら。 可愛がっている孫娘が、旅行の土産で買ってきてくれた兎のキャラクターの根付けを、最近はつけていたんだそうな。 それをなくしてしまって、どうするかなと買いにいったところ、この亀の根付けを見つけた、と。 「ほら、兎といやぁ亀だろ?まあ、じいじとしては、別の兎のを買ってつけちまったら、そっちの方がよかったのかと泣かれちまうのも辛ぇから、兎のやつはまた楽しみにしてるぜと、な・・・」 普段、現場で若い大工さんたちを怒鳴り付けている棟梁も、孫には滅法弱いらしく、照れながら教えてくれた。
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