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気がつくと、何の予告もなくして、何の欲得もなく、ボクは河鹿薫子の右手を握りしめていた。
「あっ! いやん! 秋ちゃん? 急に、なに何ナニ?」
――河鹿薫子の言葉なんて耳に入っていないボクは……
とにもかくにも、彼女を強引に引っ張りながら、まるで我が国お得意の、『打ち上げ花火的お粗末な、国家予算無駄遣い国産ロケット』の様相で廊下へ向かって走り出してしまったのだった。
「あ……秋ちゃん? どこに行くの?」
「そりゃ、もちろん、屋上だし」
ボクたち二人は一目散に階段を駆け上っている。
――そして、階段を上り切り屋上へと辿り着いたボクたち二人なんだけど……
「秋ちゃん? 屋上は出入り禁止なのに……」
――そう、過去に屋上から転落した生徒がいてさ……
その転落事故以来、絶対に屋上は出入り禁止で、屋上に居るのを見つかったなら即罰則という、かなり厳しい校則が追加されていたのだった。
――でもさ、出入り禁止だから誰も居なくて内緒ばなしに好都合なんじゃん……
「秋ちゃん……あんなに激しく降ってた雨……いつの間にか止んだわね」
河鹿薫子は、息を切らしながら、晴れ間が見え隠れする千切れ雲だらけの空を、まるで彼女自身の間を持たせるかの様に見上げている。
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