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結局、訳が解らないまま、河鹿薫子の想いを受け入れてしまったボクなのだった。
――いや、でもさ……未だにイマイチ訳ワカンナイけど、でも、ボクは秘密裏に嬉しいかも……
実は、小学校高学年の頃からイジメられっ子になっていたボクだったりする。
ボクの家庭が母子家庭であることと、貧乏あばら家に住んでいること、たったのそれだけが原因で激しくイジメられていたのだった。
――そんなイジメられっこのボクを本気で好きだって言ってくれる河鹿薫子に、ボクは何年振りかというくらい久しぶりに感激というか、感動というか……
色々と嬉しい感情が混ざった幸福感を抱かずにはいられなかった。
「秋ちゃんって、ビックリしちゃう位に、激バリ鬼凄く強引で素敵だわ」
「え? ボクがゴーインで素敵って?」
「だって、だって、だって、あたしの髪を掴んで強引にキスとかするし……あたし、強引で気持ちイイ秋ちゃんにメチャクチャ感動とかしたし」
「ごめんなさい。ボクみたいなヤツからキスとか……嫌だったよね?」
「いやん! ごめんなさいなんて言わないで! あたし、メッチャ嬉しいし……秋ちゃんからのキスが嫌だなんて、マジ鬼ウルトラ有り得ないもん!! だって、秋ちゃんのこと好きだもん! 好きなの! 大好きなんだもん!!」
相変わらず河鹿薫子はボクにしがみついたまま、か細い腕に渾身の力を込めつつ、彼女は自身の顔をボクの胸に埋めている。
と、その時、屋上の給水タンク脇にあるラッパ型のスピーカーからチャイムの音が不意に鳴り響いた。
「あ、予鈴が鳴ったし……おるこちゃん、教室に戻ろうよ」
「うん、秋ちゃん。朝のショートホームルーム始まるし」
ボクは際限なく湧き出してきている想いを込め、さっきまでは憎たらしくて仕方なかったのに、今では愛しくてたまらなくなっている河鹿薫子の手を『ぎゅ』っと握りしめる。
「いやん……秋ちゃんの手、とっても温かいし」
「おるこちゃんの手だって、とっても温かいよ」
そして、寄り添いながら二人でゆっくりと階段を下りて行ったのだった。
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