プロローグ

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「あなたを助けられず、幸せにも出来なかった私の事を恨んで下さい、憎んで下さい。 あなたにこんな運命を背負わせておいて、許しなど請えるはずもない」  膝をつき、小さな女の子の身体をかき抱いて、その人は泣いていた。 「でも、でも1つだけ約束させて下さい。 いつの日か必ず、あなたは解き放たれる。 あなたも、あなたが愛する世界も救われる。 どうか、その時まで希望を捨てないで下さい」  潮風が2人をかすめて吹き抜けた。 しかし、鼻の奥に広がるのは少女が慣れ親しんだ海の匂いではなく、全てを呑み込み、葬り去っていく炎と煙の臭いだった。  その臭いに顔を上げた『誰か』は、少女を放して立ち上がった。 手の甲で涙を拭い、2本の足で真っ直ぐ地面を踏みしめる。 「……時間がない」  そう呟く人に、おぼろげに見える背中に問いたかった。 時間がないってどういうこと? 何が燃えているの? ここはどこなの? 何が起きているの? 何が起きようとしているの? あなたは誰なの? 私にとっての何なの? そもそも私は何者なの?
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