story 7

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夏成くんがとうとう吹き出した。 「あはははははっ」 大きく開いた口に 揃った歯は奥まで真っ白だった。 ……こんなに笑う男子だったのか ギャップまくりで、若干、引く。 あの二年間はいったいなんだったんだ。 ねぇ、夏成くんてば。 「美隼さん、夏成、夏成言いすぎて どの夏成か分かんないよ」 苦しそうに息を継ぎながら言って また、可笑しそうに笑った夏成くんを見て 今度は何故か悲しくて悲しくて仕方がなくなった。 こんなに楽しそうに笑うこの子の わたしといた二年間が この夏成くんにとって何にもプラスになるものがなかったと思ったからだ。 「夏成くん、なんで夏成くんは」 「あー、だよね。 あ、美隼さん、ンな顔しないで なんか勘違いしてんじゃない?」 あー、ウケた、と言いながら睫毛のカーブを拭うように指をそこに滑らせ 「オレが“夏成”として生きていくことはね オレが自分で選んだんだよ。 その方が色々都合がいいからね」 呟きながら もう何度か指を睫毛に添わせた。 「夏成がね、変なことを言い出したのはちょうどそれぐらいの頃かな」 「変なこと?」 カフェオレのマグカップを思わずギュッと握る。 「そう」 「なんて……」 チラリとわたしを見た夏成くんは ふ、と身体をソファーへ預け、そこに深く沈んだ。 「もうすぐ僕はいなくなる」 「は?」 さっき、夏成くんが言ってた “夏成くんの鋭い勘”のことが頭を過ぎった。 「あいつのホラーみたいなとこはいつもそうやってボソッと呟いたことが、実際に起こることなんだ」 目が開いたまま閉じようとしないわたしは 夏成くんから“夏成くんの話の続き”を 待っているからだ。
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