story 4

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啖呵を切った癖に 夏成くんのことを考えるなんて……。 もう彼とはかかわらない生活になるはずなのに。 ドライアイスの煙のようにモクモクと何かが湧き出してくるのを抑えるために 脱いだ靴を思わず揃えた。 「なんだ、そんなこともするんだな」 高峰さんが進むと勝手にライトがどんどんと点いていく。 うちのライトはこんな賢くない。 人がスイッチを押さないと点灯しない。 お金を出せばいくらでも 便利で素敵な生活ができるんだ。 夏成くんもわたしがそばにいないほうが そうできるだろう。 グレーのツルピカな床に映りこんだわたしの顔は 全開に疲れきっていて これじゃいっくら美人だと言われても説得力に欠ける。 顔を上げて高峰さんの後ろ姿を追う。 美人だと思っていたその人が 実はどうしようもなくハンサムだった件。 これも夏成くんの不可解行動と肩を並べるくらいのレベルで ハッキリ聞いたら ちゃんと全部の謎を解き明かしてくれるんだろうか。 だけど、ボーンとひとつ鳴ったのは 昔、懐かしい振り子時計の鐘の音だった。 少しだけ歪に揺れて余韻を響かせるそれは わたしの頭から正常に判断する力を奪っていく。 もう、1時だ。 最近稀に見る寝不足のせいで ただただ早く眠りたいと目を擦った。
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