story 5

3/40
10406人が本棚に入れています
本棚に追加
/287ページ
ぎゅうぎゅう、と2回握られて 「痛いですよ、高木さん」 顔を顰めてみる。 爽やかな顔で笑った高木さんは 「ね、飯でも行かない?」 「!」 こういうやり取りはわたしには不必要なんだ。 わたしは、この会社をあわよくばガッタガタにしようと来てるわけで 出来るだけ余計なことはしたくなかった。 「今日ですか?あいにく予定があって。 すみません」 ちょっとした隙間が空いて ぱっ、と離された手。 「今日じゃなくてもいいんだけど」 こっちもちょっと隙間を空ける。 「それは個人的なお誘いでしょうか」 それなら勿論お断りだ。 「どうだろー、まぁ、どっちも?」 座りっぱなしだった椅子から立ち上がって 小さく伸びをする。 気持ちよさそうだと思った。 「申し訳ないのですが、そういった事は 全てお断りしております」 また、隙間があく。 さっきよりも少しだけ長いそれのあと、高木さんは そう、と言って 「じゃあ、またね」 鞄を掴んだ。 丁寧に頭を下げて断っても嫌味を言う男はたくさんいた。 顔が綺麗なだけでスカしてんじゃない、とか 何様だよいけ好かない、とか エレベーターの前で箱の到着を待ちながら ホントは盛大に吐き出したい空気を静かに零す。 「あ、そうだ。 ありがとね、こないだ」 高木さんが、不意にそう呟いた時 ちょうど扉が開いた。
/287ページ

最初のコメントを投稿しよう!