story 5

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足音がわたしの真横に移動して来ると 何かが机に置かれて 見て、ギョッとした。 確かに自分のモノなのに もう原型を留めていないことに驚いたのと あれ、こんなに酷かったっけ、って 思ったのと。 スライドチャックの付いたA4サイズの透明の袋の中に切り刻まれた布。 恐らく、いや、間違いなくあの日履いていたスカートだ。 横と縦くらいにしかハサミが入っていなかった筈なのに今では無残に散り散りになっているではないか。 ここで初めて副社長を見上げた。 冷えた視線を捉えて 背中の毛穴が更に開いたような感覚を覚える。 「こうなりたくなかったら近づくなよ」 「……異常性癖」 ポソ、と歯の奥で呟いた。 この会社、よくもってるよね。 こんなことを平気でするようなトップがいるのに。 ああ、性癖なんて関係ない? 要は 仕事が出来るかできないか 金の管理が上手いか下手か なのか。 いや、見た目もじゅうぶんに会社のイメージには関係あるよね。 あのお多福肉団子、対外的にはいつもニコニコ元気良く、なのかもしれない。 ご忠告は有難い、甘んじて受け止めようじゃない。 「わざわざありがとうございまーす」 切り刻まれることになったとしても 近いうちに社長の元へ出向かなければ、と こんな時に、やっと腹を括るつもりになっていた。
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