story 5

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元々持ち合わせていたナチュラルなスキル? それとも辿ってきた人生(みち)の中で 強制的にインプットした手練か 空気のように吸収した手管か。 どっちだっていい この男は自分の価値をじゅうぶんに知ってる。 「なんで隠してる?」 机に手が置かれた。 そこは、ちょうど切り刻まれたスカートの上。 大きな掌は透明な袋に皺を刻ませた。 それが掌の中心に吸い込まれるように渦を巻くのを横目で見て 背中の開いた毛穴に緊張の汗が浮くのを感じた。 眼のことは ホントに気を付けていた。 今までバレなかったのが不思議といえば不思議だったけど 自分が気を付けすぎるくらい、気を遣ってた。 眼球のカーブに合うものを選んでいたからコンタクトがズレるようなことはなかなか無かったし ターゲットになる男の前でベロベロに酔っ払うなんて失態もなかった。 「隠さなきゃならないほど嫌なのか 違う理由で隠さなきゃならないのか」 「単に見えないからですよ、コンタクトは わざわざ互い違いのカラコンなんて買いませんよ」 平静無事を装い こっちの調子を変えないように吐き捨てて 一緒に深い呼吸を逃がす。 高校の頃 良くない出会いで会ったオッサンたちにさえ 感じなかったモノを 大人になった今 一応雇用されてる会社のターゲットではない男に感じるなんて。 こんな時なのに気になったのは 伸びてネイルが行き届いていない爪半月。 楽チンサンダルを履いた闘えない足元。
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