story 5

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顔の角度を傾けてちょっと誘えば 唇同士なら簡単に触れ合えて あわよくば このまましゃがみこめば この間は晒せなかった足の付け根、内側からその奥をじっくりと口腔に溜まった液体でねぶり回すことだってできる。 ああ、勿論、神谷忍がね? 申し訳ないけどわたしはそんな不名誉なことを自らシてはあげられない。 ……あんたのニイサンにはしなきゃならないんだけどね。 「なんですか、唯一手を出さない部分(トコ)って」 「兄貴はオレのモンには手を出さないんだ 絶対」 「は?」 「嫌なんだろうな、オレのアトが。 ま、オレも兄貴のお下がりは問題外だわ」 だから だから、どうしろと。 「どうする?」 「なにを?」 あまり近すぎると 焦点が定まらなくて お互いの顔がちゃんと見えるか見えないかの距離。 「かくまってやろうか」 文字だけ見れば 甘い。 だけど 響きも それを口にした神谷忍、あんたも どこも何も甘くなんてない。 口先だけでもない そこにも掠ってなんてないじゃない。 現に 絶対そっちからはこの“間”を無くそうとはしない。 わたしも、だけど。 この“間”はきっとこれ以上近づくことはない。 そう思ったら 案外、楽になった。 どうするのが正解なのか 人によっても、場所によっても、時間によっても違う。 「なんですか、それ。 そーんなつまんないの、誰も引っかかりませんよ。 なに、かくまうって!」 ぷっ、と笑いを零して わざと大きく身体の向きを変えた。 神谷忍、あんたに囚われるつもりはない。 気持ちの中で完を結んだ。
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