story 5

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髪を引かれると顔が上を向く。 ホントによくご存知だわ 女子がキュンキュンするポイントを。 その間も指の腹が直に頭皮を撫ぜる。 髪も巻き添えにしながら ざり ザリ ここでも“間”を巧みに使って 触れていることをますます実感させる。 「お戯れを……」 「なに、それ」 「ほら、よく悪いお殿様が町娘に手を出すアレですよ、その時“お戯れをー”って言うじゃないですか」 早いとこあんたのアニキをどうにかしなきゃならないから どんなに本能が吠えようが 身体が渇いてようが ここで血迷っちゃならねぇんだよ。 そしてあわよくば こんな会社潰れちゃえばいい。 「お戯れをー」 感情皆無の棒読みが炸裂した。 ザリザリも、ザ、で止まって フェロモンで淡く見えていた視界も晴れてくる。 ここがサバイバルの真っ只中だったら 自分の脚とかにナイフで傷つけちゃって正気を保つ、とかするんだろうけど この場にそぐわない セリフの棒読みでじゅうぶんだ。 わたしが神谷忍とどうこうなるとか あってはならない。 だって 関係ないんだもん。 「仕事、続きしてもEですか? じゃないと、ケアルラさんとこの、うち大損しますよ」 床に転がったクリップを拾うのを理由に 神谷忍の“間の手”から抜け出し 「あ、別に美生堂さんとこで元取れるからいいのかー」 ちょっとイヤミっぽくブーたれてやった。
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