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「あ、そーいえばご存知でした?」
新鮮な話題を振ってやろうじゃん、副社長様よ。
「わたしと一緒にエレベーターに閉じ込められたオバサン、覚えてらっしゃいます?
なーんか、ケアルラの担当さんのお母さんらしいですよー」
パソコンを睨みながら
神谷忍に探りを入れる身体。
「世間って、狭いですねぇ」
ゆっくりと神谷忍を振り返り
見上げて眉目秀麗を眺めて、微笑む。
「副社長様」
とにかく、笑顔だけは下品なものではない
これは高峰さんの御墨付きだから。
口角を上げ過ぎない
世辞に溢れていても、作り物感覚にならないように
余裕を見せてキープする。
向かい合って暫く
「そうだな」
神谷忍は意味ありげに呟いてから
人差し指をネクタイの結び目に入れ
そこを緩め
ここでの出来事を締め括るかのように、息を素早く吐き出した。
「おつかれ」
軽く手を挙げた背中を見送る。
笑顔がすぅ、と消えていく。
身体の中で膨らんだ圧も
波立つ心臓の揺れも
地球が息を吸い込んで潮が引いていくよりも速く簡単に消えていた。
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