story 5

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広い、と思うのは毎日。 一面の大きな窓がきっとさらに広さ感を増し増しにしているんだ。 「高峰さん、久しぶり」 「おかえり、美隼」 会社ではサガラハルノ、として過ごすが わたしをハルノ呼ばわりする人は誰もいない。 「美隼ちょっといい?」 キッチンに立つ高峰さんに呼ばれて 頷いてから目の前のカウンタースツールに腰掛ける。 ここに入ってからなんとなく感じていた いい匂いの正体を目の当たりにする。 グレーチェックのグリルミトンを嵌めた高峰さんが オーブンから取り出したのは グラタン。 「ミートグラタン、食うか?」 どうだ、と、言わんばかりのニヤリ顔を向けられて、思わず笑ってしまう。 「食べる!」 嬉しいサプライズだ。 そういえば、ここ何年とこういうシチュエーションなんて経験してなかったことに気付いて なんか、ギュッと胸が掴まれたみたいになって それを隠すようにスツールから立ち上がった。 「手、洗ってくる」 「そうだな」 モノトーンのシリコンシートに グラタン皿を置いた高峰さんを横目にリビングを出た。 こんな普通の 絵に描いたような普通であろう出来事に 掴まれたみたいなったところの奥が ジクジクと痛くて、思わずぎゅっと目を強く瞑って それを飲み込んだ。
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