夏なんてなくなればいいのに

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 何とか十五分のリミットに間に合わせて戻り、準備を整えて待機室へと飛び込むことができた。 「遅いよ」  タクマが開口一番、遅れを非難する。鍛え抜いた体の輪郭を浮かび上がらせる仕事着に身を包んだ同僚たちが一斉にこちらを見た。 「――はっ、いや、はぁ、間に合った、だろ」  息を整えて言い返す俺をタクマが小突く。すぐに周囲を見て気づいた。同僚たちが不満を隠さずに俺へぶつけてきている。 「あ、いや。すみませんでした」 「非があるって、認めるんだよね?」  タクマが良い笑顔で俺の肩を叩いた。嫌な予感を覚えつつも、空気に抗えず頷いてしまう。 「言質取ったよ。今日のヒーローはケンジだ。僕たちでしっかりとサポートしてあげよう」  タクマの高らかな宣言があり、剣呑な空気は歓声と共に消え去る。晴れやかな笑顔が皆の間で飛び交った。そんな弛緩した空気の中に、各員が装着した骨伝道式のインカムを通して命令が届く。 『第二十八駆除隊に出動命令が出ました。持ち場へ速やかに移動をお願いします』  命令を受けて皆の顔が一斉に引き締まる。それでも皆が上機嫌に俺の背を叩いて外に出ていく中、最後に残ったタクマに説明を求めるように視線を送る。 「間に合ったのは褒めたいところだけど、当然、みんなには口止めが必要だから。僕も前に出るから、それでいいよね」 「悪い、助かる。ただ、初撃は任せてくれていい」 「了解。へばんないでよ?」 「冬なら余裕だって言うところなんだけどな。タクマは真夏日の経験あるか?」  待機室から持ち場へ向かいながら尋ねるとタクマは静かに首を振った。 「今のところは無いかな。警報は何度かあったけど」 「そうか」  小走りに持ち場へ向かい、目的地の手前に並んだ得物を取るために立ち止まる。身長程もある重量感を備えた片刃の大剣。柄と刀身の半ばに設えられた取っ手を使い、両手で扱うものだ。タクマも同じ形状の得物に手を伸ばしながらポツリと言う。 「何で真夏日の経験なんて聞いたの?」 「俺は前任地で経験した。気を付けた方がいい。もし本当に真夏日になったら誰がヒーローだとか言ってる場合じゃなくなる」 「どういう意味?」 「人手が足りなくなる。いろんな意味でな」
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