原始人

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「よし。焼けましたよ。ほら、火を怖がってないで食べてみて下さい」  何となく、優越感というか、自尊心をくすぐられたというか、不思議と心地がいい。  恐る恐る塩焼きを手に取る原始人。 「う、美味いッ!」 「でしょ。これが火の有効利用法です。もちろん燃え広がってしまった時に備えてバケツか何かに水を用意して下さいね。火は怖くないんです。むしろとても便利なんです」  鼻高々に云々と解説してしまう俺。  そんな言葉を聞いているのか、一心不乱に塩焼きにかぶり付く原始人。  ほっこりとする俺。  そんな俺達の一時の交流は終わりを迎える。俺が休暇を終え再び現代社会へと帰るべき時が来たのだ。もちろん原始人の存在は俺の中だけに留めておこう。彼には彼の生活があり、ただひっそりと平和に未開の地で生きて欲しいと願ったからだ。  それが彼の幸せだろうと思った。  頑張れよ。  と心の中でつぶやいた。  俺と別れた彼は木々が鬱蒼と茂るジャングルの中に素っ裸のまま消えていった。  その後ろ姿はどことなく寂しそうにも感じた。
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