-其の零 十六夜月の出逢い―

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 あの辿々しい話し方から考えても、人と言葉を交わすことさえも〝稀だった〟のであろうことが窺える。  左右色違いの妖眼を、忌み嫌われ『幽閉』でもされていたのだとしたら、それは些か合点がゆかぬ。    -蒼の妖眼は美しく澄んでいるのだ-  無論、打算や駆け引きなど微塵もなく、この世の『醜いもの』や『汚いもの』など一切知らぬような無垢なる瞳だ。  幾ら〝普通でない〟からと言って忌み嫌われたり、忌避されるようなものではない。〝禍々しさ〟など、全くと言っていいほど感じられぬ。  寧ろ、清浄で神聖。いっそ〝神々しい〟とさえ言えるような瞳だったから。美しい色合いの宝石のように耀く瞳。 (『幽閉』でないとしたら、一体何故?記憶を失うほどのってことか?)  いつから、あの場所にいたのか、いつから記憶がないのか。それはわからないけれど〝記憶を失うほどの目に遭った〟………いや『そんな出来事』があったと言うのか? -〝記憶〟を失わなければ『自我』が崩壊し  てしまうような『凄惨な出来事』が-  蒼が〝どんな目に遭った〟のかわからない。
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